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「RACE」観劇 [┣汐美真帆]

Rising Tiptoe#23
「RACE」


作・演出・デザイン:宇吹萌


照明:勅使河原明子
音響:大石和洋
舞台監督:服部寛隆
美術:宇吹萌
制作:Rising Tiptoe
制作協力:廣井大輔
協力:龍前正夫舞台照明研究所、藍アキラ


元宝塚の汐美真帆が下北沢のスズナリで主演する…この魅力的なニュースに、慌ててチケットを取り、観に行った。


これまでずっとスズナリには縁がなかったが、2017年、いきなり2作品を観ることになろうとは[exclamation×2](一度目は、夏に新井浩文さん出演の「鳥の名前」で。この時も2回観たので、都合4回行ってしまった[揺れるハート]


Rising Tiptoe公演は、1年前にやはり汐美主演の「THE BITCH」を観ていて、面白い脚本だな~と思っていた。
今回の作品は、主演の汐美へのアテ書き作品。さて、どんな舞台になるのか、とワクワクドキドキ劇場に向かった。


タイトルの「RACE」は、競走・競争・人類・人種・品種・水流・急流・水路・鼓動・人生行路・時の経過・仲間・同類・子孫・寿命・ワインの風味みたいな意味があるんだとか。
ヒロインのケイ(汐美真帆)は、どうやら、オリンピックのマラソン金メダリストという経歴を持っているらしい。
今は、引退して、田舎のリゾートホテルに宿泊している。そのリゾートホテルは、ケイにとって癒しの空間であり、結果を考えずに湖畔を走る時間は至福の時だった。
そのリゾートホテルに、どこかの大学の競走部の学生が逗留し、トレーニングをしている。この中からテストで一名が実業団入りできるとか。彼らは友人でありライバルでもある、ということか。そのわりには、ゆるいメンバーたちだが、実は中の一人は血液ドーピングをやっていることが途中で露見する。
ケイには従妹がいて、そのリル(平松沙理)は、ケイと対極にあるような人生を送っている。そもそもこの地は、かつてダム建設のために一つの町を湖底に沈めた過去があり、リルは立ち退きをした家の子であり、ケイは周囲の残った地区(アップステート)の子であった。ケイは自分を追い込み、周囲の期待に応え、マラソンで金メダルを取るが、組織ぐるみのドーピングに異を唱え、勝てなくなって引退する。
リルは、デザイナー兼販売員としてインテリアショップで働いていたが、上得意の客の誘いを受け、彼女自身が内装をデザインした豪華客船での旅に出る。
ケイはリルの幸運に不安を感じて止めるが、案の定、彼女は盗人の疑いをかけられて船を放り出され、その上、視力も失ってしまった。そんなリルから理不尽とも思える怒りがケイに向けられる。
ケイは地元のワイナリーに職を得るが、その納品先であり、ケイの居場所でもあるリゾートホテルは、閉鎖の瀬戸際に立たされていた。そんなケイのもとに、リルを放り出した豪華客船の運営会社からマラソン復帰レースの話が持ち込まれる。
ドーピングによる失格から復帰する選手の“噛ませ犬”として、2位になることが条件。それを飲めば、リゾートホテルを救えるだけのバックマージンが支払われる。


さて[exclamation&question]


ケイはレースに出ることを承諾する。しかし、レースの結果はわからない。芝居はそこで終わった。


なかなか難解な公演。
冒頭、ケイと従妹のリルの会話は、禅問答のよう。そういえば、以前観劇した「THE BITCH」もかなり禅問答のような芝居だったな~と思い出した。
芝居の途中でも、何度か、ケイとリルの会話が出てきた。その都度、リルの境遇は変わっていて、最初は、家具店の店員、次は豪華客船の室内装飾デザイナー、次は客船のリッチなお客さんの話し相手、そして失明して無職になり故郷のマウンテンホテルの短期アルバイトに応募してくる。
このリルという存在が、不思議なインパクトを与えつつ、逆に、作品を「こういう話ね」と纏めてしまう足かせになっている。
たとえば、ケイは、リルの父が経営していた牧場の馬に、特にオッドアイの馬に思い入れがあった。しかし、町がダム建設のために湖に沈むこととなり避難した時、馬はすべて人に譲るか、置いてきたのだった。それは、誰よりも、ケイの心の傷になっていた。リルの一家はケイの家に居候することになったが、ケイの家では馬を引き取ることができなかったのだ。
引き取り先が見つからず、繋がれたままの馬たちは、やがて餓死し、ケイはその骨を拾いにいったことがあるらしい。ということは、牧場はダムの底に沈む位置になかったということで、周囲に町がなくなれば存続できないという理由はわかるが、だとしたら、馬を繋いだまま人間だけ避難する緊急性は乏しい。なんらかの現実に絡めた比喩なのだろうが、そこがわからなくてモヤッとした。
その時、鎖が切れていなくなっていたのがオッドアイの馬だった。しかし、このエピソードは、芝居の中で回収されない。
また、全体を通してたびたび登場するのが、このダムの底に沈んでしまった町の出身者たちへの差別。
沈まなかった「アッパーステート」の人間(ケイを含む)が、沈んでしまった地域の人間(リルを含む)を差別しているらしい。もちろんケイ自身はリルを差別していないのだが、リルは、ケイの親切が上から目線に感じられるようだ。それは、「オリンピックの金メダリストという特別な人間であるケイが、何者でもないリルにえらそうに意見をしている」と、僻むべきところを、そもそも住んでいる地域で差別があるために、リルが僻みすぎているだけなのか、それすらも差別なのか、この辺は、もっと掘り下げてもよかったかもしれない。


メインのストーリーについては、これは、私の独断なんだけど、汐美真帆が演じる以上、ケイは、ガチなレースしかしないだろうな、と思った。私的には、そこに疑問の余地がないので、終演後、「あれからどうなったかな」とは思わなかった。
とはいえ、物語は、様々な要素が絡んでいて、心理劇としてとても面白かった。


ケイという役は、汐美真帆なのか、ケイなのか…というくらい、汐美にピッタリの役で、くるくる変わる衣装も斬新だけどとても似合っていて、やっぱり華やかな人だな~と認識。
ただ、私が観た日は、冒頭で台詞の一部を忘れてしまったようで、似たような言葉を探しながら台詞を繋いでいて、その素に戻ってしまった部分に、彼女のブランクを感じてしまった。日々舞台に立っている人は、そういう時のリカバリー力がすごい。早くその域に達してほしいな。そこから、あらためてファンになりたい、と真剣に思う。


平松は、不安定なリルを繊細に、時に不気味に演じていて、面白い女優さんだと思った。
そして、客席に笑いを振りまく星野クニに心を奪われた。彼女の自然なのに先の見えない芝居力は、クセになる。


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