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「君が人生の時」観劇 [┣演劇]

新国立劇場 演劇2016/2017シーズン
JAPAN MEETS…―現代劇の系譜をひもとく―XI


「君が人生の時」The Time of Your Life


作:ウィリアム・サローヤン
翻訳:浦辺千鶴
演出:宮田慶子


美術:伊藤雅子
照明:沢田祐二
音楽:かみむら周平
音響:上田好生
衣裳:半田悦子
ヘアメイク:川端富生
アクション:渥美博
振付:RON×II
演出助手:城田美樹
舞台監督:福本伸生


歌唱指導:伊藤和美
イタリア語指導:デシルバ安奈


新国立劇場中劇場で上演された「君が人生の時」を観劇した。
舞台は、1939年のサンフランシスコ。港に近い安酒場(サルーン)を舞台にした、出入りする人々の群像劇。散文詩のような舞台なので、その世界に入り込めないと、わけがわからないまま、終演を迎えることになるかもしれない。


主人公は、このサルーンの一角で朝から晩までシャンパンを飲んでいる男、ジョー(坂本昌行)。坂本くんを観るのは、「ボーイ・フロム・オズ」以来じゃないかなぁ~[あせあせ(飛び散る汗)]
このジョーが、とっても謎キャラ。お金はたっぷりとあるらしい。でも、仕事はしていない。それでいて、色々と顔がきく。ずっと座っているが、1幕の終わりに立ち上がる。それで、彼が足を引きずっていることに観客は気づく。しかし、この足についての説明はない。
店の主人、ニック(丸山智己)は、ジョーのために安酒場なのに、シャンパンを仕入れている。丸山さん、たしか、スタジオライフの「OZ」に客演したことあるよね[exclamation&question]ネイト役で。あら、なんか、オズ繋がり…(笑)
そして、この安酒場は、娼婦たちの客引きの場所にもなっているらしい。
バツグンに可愛い娼婦、キティ(野々すみ花)は、傷だらけの猫のような娘。自分の人生が苦労の連続だったこと、今は娼婦であること、をうまく消化できなくて、怯えて、攻撃的になっている。
ジョーの子分を自認するトム(橋本淳)はキティを愛していて、彼女に娼婦をやめてほしいと思っている。
サルーンには、警察官も立ち寄るが、その中でブリック(下総源太朗)という男は、高圧的に娼婦の取締りを行うので、嫌われていた。
たくさんのエピソードが紡がれる中、キティを守るためにサルーンの弱き人々が一つになった瞬間、事件が起きる。


なんとも、複雑な気持ちで劇場を後にした。
後味は、決して良くない。少しだけ、スカッとするのだが、いやいや…と自分で自分を否定する。
ラストはこんな感じだ。出入りする人々を徹底的に弾圧するブリックが殺害される。彼の部下である警官たちは誰も犯人を追おうとしなかった。そして、サルーンでホラばかり吹いていた男・キット(木場勝己)が、自分がやったと言う。それで、みんながわーっと喜ぶ。証拠隠滅のために銃を海に捨てたと言うキットに、ジョーは買ったばかりの銃を代わりに与えて去って行く。
その前に、ブリックは、店のエンターテイナー、ウェスリー(かみむら周平)をボコボコにして、キティにストリップまがいのことをさせようとしていた。そもそも、キティがひどく怯えているのは、この高圧的な警察のせいかもしれない。だから、つい、死んでしまえ[ちっ(怒った顔)]という気持ちになって、実際にそれが果たされるので、なんか、やったー[exclamation×2]と思ってしまうラストシーン。そして、終演後の自己嫌悪[バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)]である。
もしかしたら、ここで見せられた以上にひどい男なのかもしれないが、少なくとも、私が舞台で観たブリックは、それだけで殺されていいとは思えなかったからだ。なのに、ついつい…[爆弾]
自分の中にある、残虐性に気づかされ[バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)]落ち込んで帰って来ました…[もうやだ~(悲しい顔)]


ということで、色々、思うところはあるものの、それも含めてサローヤンの術中に嵌まったかな…と思った。


では、出演者感想。


坂本昌行(ジョー)…なんともつかみどころのない芝居の主人公らしく、なんともつかみどころのない、謎の男。
しかし、善人さは伝わってくる。トムやキティに寄せる無償の善意と、それを実現可能にする謎の財力と人脈。彼はいったい何者なんだろう[exclamation&question]という謎は解けないまま。その不思議ちゃんな感じが、似合っていた。
彼なくしては、成立しない公演だったと思う。


野々すみ花(キティ・デュヴァル)…ホテル・ニューヨークを定宿とし、そこで仕事に及ぶ娼婦。なりたかった自分と今の自分の間の距離を埋めることができず、何かに怯えて不器用に生きている。かなり不幸な人生を送ってきたらしい。
すれっからしの娼婦でありながら、透明な少女性を失っていないところが、野々ならではの役作り。
あばずれ感を出すために、椅子に座る場面では、足(膝)を開いて座る。が、なぜか、その姿勢が男役っぽい。足を開いて座るというと、ゆうひさんとかのあのポーズが脳内に再生されちゃうのかな。だったら、なんか嬉しいな。


丸山智己(ニック)…サルーンの経営者。客を差別しないが、金を払わない客には厳しい。娼婦たちが客探しに訪れても、注文して支払う限りは好きにさせている。そして、そんな彼の“城”を土足で踏みにじるブリックに対しては、心底腹を立てている。「カサブランカ」でいえば、リックのような存在。
「OZ」のネイトの時も、彼の芝居が好きだった。今回も、ニックの存在が、居方が、とても好きだった。


橋本淳(トム)…淳くんが出てるせいか、舞台が新国立の中劇場だったからか、なんか、「黒いハンカチーフ」をやたらと思い出した。役どころは全然違うけど。
ジョーの子分として、どんな理不尽な注文も聞いて買い出しに行ってくる。拳銃まで買うし。キティを愛していて、彼女に娼婦をやめさせて、結婚したいと考えている。すごく純粋で、すごく可愛くて、迷いがないけれど、ちゃんとあれこれ考えているところを、相変わらず過不足なく演じていて、やるなぁ~と満足。


下総源太朗(ブリック)…この辺の警察のえらいヤツらしい。そして性格は最悪で、残虐性もある。弱い者や年寄り相手だと居丈高になり、殴る蹴るの暴行を働く。現在は、娼婦の取締りに力を入れている。
いやー、本当に、見事にイヤなヤツでした[exclamation×2]
彼がやり切ってくれないと、盛り上がらない。そういう大事な役。本当に素晴らしかったです。


沢田冬樹(アラブ)…言葉少なで、セリフも同じセリフを繰り返しているけど、彼の存在が、このサルーンの「多様性」そのもの。


中山祐一朗(クラップ)…制服警官。いろいろ愚痴を言うのだが、憎めない。何を言っても憎めてしまうブリックとの対比が鮮やかだった。


木場勝己(キット・カーソン)…突然現れて、ホラを吹き倒して、ジョーから酒をおごられる。しかし、最後に、キーパーソンとなる。ホラのひとつひとつが、しっかりと絵面を想像させる。その語りの力を感じた。


その他、ピアノ弾きのウェスリーを演じたかみむら周平、ボードビリアンのハリーを演じたRON×IIなど、エンターテイメント・バーにふさわしい出演者や、なんだか、出番少なくてもったいないんですけど…的な出演者もたっぷり。その中で、間違い電話で呼び出された人の好い女性と、すれっからしの娼婦の二役を演じた枝元萌が、短い出番ながら、しっかりとキャラを立たせ、さすがだった。


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