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「TABU」感想 その2 [┣大空祐飛]

その1はこちらです。

ところ変わって、裁判長、ヨーナス・マイヤー(佐藤誓)のオフィス。
裁判長が笑いのタネを仕掛けまくっている。けっこう頭の体操的な舞台なので、このシーンはよい息抜き。でもちゃんと、ここで重要な問題も取扱われている。息抜きしすぎちゃいけません。
ここで、どっかんどっかん笑いが起きるのだが、大人しい東京がキャパの少ない濃密な空間、ノリのいい関西がけっこう大きい会場だったので、関西の笑いのエネルギーには驚いた。
裁判を始める前に、裁判長、検事、弁護人が事前にすり合わせを行う、という場面。
不倫騒動で出世の道を断たれたという噂の裁判長が差し出す「妻のつくったクッキー」に対する弁護人、コンラート・ビーグラー(橋爪功)と、婉曲ながらきっぱりと拒否する、検事、モニカ・ランダウ(宮本裕子)。そして、裁判長が発する「私のオフィスです」という台詞だけで、これだけの場面が作れるんだな~と、役者の力量に感嘆。
ここで問題となるのは、拷問を示唆した上で採られた自白調書の取扱い。弁護人としては、最初からこんなものを証拠採用するなんてありえない、という方針。検事としては、それも含めて裁判で決着を着けるという方針。真っ向から対立するが、裁判長が裁判での決着を宣言する。
怒っているビーグラーだが、実際、彼がこの事件を担当しようとしたのは、拷問の一件のためだ。拷問について自説を披露するなら、裁判でこの件を争わなければならない。だから、本当は、これ、彼の思うツボなのだ。
そういう状況下で怒って見せるから、モニカから「芝居がかっている」とか言われるんでしょうね。
死体なき殺人事件…状況証拠だけで立件するのは相当に難しい。ビーグラーは、「そもそも被害者は実在するのか。するとしたら、誰なのか」という問題を検事に突きつける。
モニカが動揺していると、裁判長が意外なことを言い出す。
血液鑑定に不備があったので、裁判所にやり直しをさせた、と。
押収された被害者の血液とエッシュブルクの血液を鑑定したところ、二人は、両親のどちらかを同じくするきょうだいであることが判明したのだという。

被害者がゼバスチャン(真田佑馬)のきょうだいであるという鑑定結果を受け、ビーグラーは落胆した。決定的な物証には、拷問の一件など吹き飛んでしまう威力があるから。
落胆を隠せずにゼバスチャンに接見したところ、
「妹だとわかるのにずいぶん時間がかかるんですね」
平然と応対するゼバスチャンにダブルショック[爆弾]ゼバスチャンは、ビーグラーに、1枚のメモを渡し、妹を産んだ人に会いに行けば、わかる、と示唆する。どこまでも平然と、弁護人さえ自分の支配下にあるような態度…[あせあせ(飛び散る汗)]
が、ここで、ビーグラーが、セーニャという隣人が存在しない、という事実を指摘すると、一転、ゼバスチャンは、彼女の存在を猛烈に主張する。しかし、賃貸借契約も見当たらない、ソフィアも彼女の話を聞いたことがない、ないない尽くし。
家賃は現金でもらっていたし、契約書なんか交わしていない、でも、彼女はいたんだ、と主張するゼバスチャンに、ビーグラーは、「初めて、あなたには弁護人が必要だと思いました」と告げる。

ショックを受けながらも、ゼバスチャンは、セーニャとの出来事を回想する。
初対面の記憶は、セット上方にセーニャ(宮本裕子)が寛いでいる姿を見せながら、ゼバスチャンに語らせる。
しどけなく開放感を味わっている風のセーニャの身体には、焼印のような、フクロウの印が刻まれていたらしい。
そして、ソフィアとのバカンスを終えて帰宅したゼバスチャンが、開け放たれた隣室で見かけたセーニャについて。こちらはシルエット風の画像を映しての語り。裸で寝ていたセーニャのシルエットは、“裸のマハ”のポーズだった。そして、自室で眠ってしまったゼバスチャンのそばに、彼女の紙巻きたばこの香りがして…。
そして、セーニャが男に襲われているのを目撃したゼバスチャンは、彼女を守るために戦って大怪我を負い、病院に担ぎ込まれる。その後、セーニャに再会し、その男のことを聞くと…
彼女の出身地、ウクライナでは、巨大な人身売買・売春組織があり、そこで働く少女たちは、文字通り使い捨てられ、命ごとコンテナに捨てられる…みたいなことを語る。もし、その女の子の一人が、組織の金を持ち逃げしたらどうなる?とセーニャは聞く。そして、
「罪って何?」
と、呟く。

被害者がゼバスチャンの妹だということが判明したことを聞いたソフィア(大空祐飛)は、それでも彼は殺してないと、強く言い張る。
「彼と握手をしましたか?」
と、ソフィアはビーグラーに聞く。腕をいっぱいに伸ばして握手するゼバスチャンは、他人と近い距離をとることができない。そんな彼に殺人などできるわけがない、とソフィアは主張する。ビーグラーは、握手だけでなく、彼の肩に手を置いて振り払われている。
しかし、ここで、ビーグラーは、実際に彼が担当した、接触障害の殺人犯について語る。何年も誰とも接触していなかった男が、ネットで知り合った女性を絞殺し、遺体の歯を磨き、爪を整え、それからメッタ刺しにしたことを。
ショックを受けながらも、ソフィアは、子供のように、それでも彼は殺してないと言い張る。
そして、ビーグラーが、妹を産んだ人に会いに行くと言うと、私も一緒に行く、と言い、樹木鑑定士を紹介できる、私の名前を出してくれれば…と、名刺を手渡す。
ソフィアは、どこまでも必死で、どこまでも一途。とても健気な女性だと思う。それが大空祐飛という女優のキャラに合うか?と問われると、ちょっと自信がない。だって、でかいし。
ビーグラーは、彼はやってない…と言い続けるソフィアと一緒に行くのはいやだ、と言う。なぜなら、彼の心証もまた「シロ」だからだ。分かりきっていることを他人から言い募られるのが、弁護士として一番堪えるのだろう。
しかし、結局、ビーグラーはソフィアを連れていく。
それは、ソフィアが可愛いから[かわいい]
いやいや…「男が女に抱く恋心」ではないにしろ、ビーグラーはソフィアを愛しく感じている。そんな風に思える。橋爪さんの演技力に脱帽…いやいや…祐飛さんのたらし力?

飛行機を降りると、二人は車で、目的地に向かう。
非常に粘り強い弁護士であるビーグラーだが、実はイラチである。療養中の態度を見れば一目瞭然。
そして、ハンドルを握ると、人格が崩壊する。
乱暴な運転で、周囲に当たり散らすビーグラーの姿に、ソフィアは、慄いている。
ようやく街中の喧騒を抜けたところで、ソフィアはビーグラーに質問する。
「ビーグラーさんは、どうして弁護士になったんですか?」
と。それに対して、学生時代は音楽をやってたけど、プロになる腕ではなかったから…という答え方をするビーグラー。
「それじゃ答えになっていません」
答えるソフィアの困ったような笑顔が可愛くて。
祐飛さんって、女顔なのに、表情が少年っぽいんだなー[揺れるハート]とか、そんなことを思いつつ、観てたので、この辺のやり取りは、ちょっとうろ覚え。たしか、人間、最後は自分が一番大事。それが自由ということ。それを守るのは、法律なんじゃないか…みたいな話だったかな。違ってたらすみません。
そして、ゼバスチャンがどうして写真家になったか、そのもとにあるゼバスチャンの不思議な感覚について、ソフィアは話し始める。
そもそも、この内容は、原作本ではゼバスチャンの半生のところでガッツリ描かれている。が、今回のお芝居では、そこは割愛しているので、どこかで説明しないと、この先へ進めない。
ゼバスチャンの感覚というのは、「共感覚」。
文字や数字に色を感じる。ゼバスチャンの場合は、この世のすべての存在に色を感じるらしい。
ひとつのエピソードとして、ソフィアが語ったのは、「おかあさん」。彼は、母親を無色透明と感じていて、だから、母親がカラフルなセーターを着た時に酷く怒って、セーターを土の中に埋めてしまったらしい。
ちょっと笑える話だが、彼を犯人と思っている人には、笑えない話かも[exclamation&question]
彼の頭の中には色の地図があって、普通の人が文字と音声で記憶していることを、彼は色と光で記憶する。
とすれば、彼にとっては、写真は真実を写すだけの存在ではない…のかもしれない。文字が、ドキュメンタリーにも小説にも使われるように、写真もまたリアルとファンタジー、両方を写せるものなのかもしれない。
そんなゼバスチャンとの間に普通の会話は成立しなくて…それでも手伝ってほしいと言われて、ソフィアは、何もかもを手伝った。それはもう、女の羞恥心を超えるレベルで。
でもゼバスチャンは、ソフィアが考えることすら見通せてしまって…
「あなたは子供をほしくないの?」
これ、原作では、実際に口にしている台詞なんですよね。そして、ゼバスチャンの反応が芳しくなかったので、すぐにソフィアは取り消す…。
ゼバスチャンに会う前、不倫の恋をして、2年間同棲していたというソフィア。ゼバスチャンのことを、全部がここにない人、というふうに言っていた。ゼバスチャンの普通とは違う感性のせいだとしても、ソフィアにとっては、そういうのって不倫相手と同じこと。
やり手のキャリアウーマンだけど、恋に関しては、どこか少女のような舞台版のソフィアは、演じている大空祐飛という女優のどこか堅い蕾のような、刺で身を守る薔薇のような個性に引きずられて…かもしれない。
そんなソフィアに、相手のすべてがわかるようになるのは、恋が別のものに変わったあとです、とビーグラーは、彼女の手をぎゅっと握って、やさしく励ます。
今回、ゼバスチャン役は、ジャニーズJr.なので、接触シーンは、ほとんどない。10歳以上年上でも、女性は女性、近づきすぎてファンに恨まれたら大変、ということか…。
そんなソフィアにとって、ゼバスチャン以上に接触していたのが、実は、ビーグラーさんでした[exclamation×2]
というわけで、お稽古場では、この車の場面を“ラブシーン”と呼んでいたらしい。本当のラブシーンではないけど、橋爪さんのような、素敵な俳優さんと“ラブシーン”をさせていただくのは、なかなか光栄ではないかしら[exclamation&question]
ビーグラーは、彼にとってソフィアは何色だったのか?と聞く。
「彼の腕枕で寝ている時、薄紅葵の花のようだと言われました」
ビーグラーは、花には詳しくないが、と前置きして、ジャズの名曲を彼女に捧げる。
「On a Clear Day」―晴れた日に永遠が見える―1997年、雪組で上演されたミュージカルを思い出した。

暗転して二人がはけると、客席からゼバスチャンが登場する。
ここでゼバスチャンの忘れられない思い出が語られる。
生まれて初めて、父(池下重大)と行った狩猟。この狩とその後の出来事がゼバスチャンの脳に強い刺激をもたらす。
父にとって「狩猟」は、貴族としての「たしなみ」ではない。もっと神聖な、人間と狩られる動物との真剣勝負であり、儀式。だから、父は、貴族仲間と連れだって、おしゃべりを楽しみながら狩猟をすることはない。
社交的でない、拘りの激しすぎる性格は、どうやら、そのままゼバスチャンに受け継がれたらしい。
角が6つに分かれた大きな鹿を発見、一発で仕留めた父。それを双眼鏡で確認していた息子。父は、鹿を捌き、持ち帰る。その白い内臓と、赤い筋肉と血の印象…その晩、自殺した父の鮮血…

ビーグラーとソフィアは、小さな個人経営のホテルに着く。
そして、女主人のアンナ(大沼百合子)に会う。彼女が、ゼバスチャンの妹を産んだ女性だという。
アンナはそのことを認めるが、驚いたことに、ゼバスチャンが誘拐したとされている女性(ゼバスチャンの部屋から押収された写真)は、彼女が産んだ娘ではなかった。
アンナから、娘のマリア誕生までの経緯を二人は聞く。
アンナの娘がマリアなのね…[exclamation](聖母マリアの母は聖アンナ)
二人の出会い、恋の始まり、そして妊娠を知ったエッシュブルク氏の苦悩。その苦悩の激しさを見て、アンナは、彼を壊してしまう…と直感し、出産後はもう会わないことを決める。二人の関係は誰にも知られていなかったから、エッシュブルク氏の自殺は、だいぶ経ってから、客の噂で聞いた、と。
父親を憎んで成長したマリアが、兄に当たるゼバスチャンについては、ずっと情報を集め、16歳になったと同時に、ローマの個展に行って彼と会った、という。その後、このホテルに現れた二人は、普通の兄妹以上に、何かが通じ合っていた、とアンナは語った。
そして、マリアは、「彼の作品の一部になる」と言い残して、いなくなった。
「死んだ、ということですか?」
と聞くソフィアに、アンナは驚く。
マリアは、スコットランドの寄宿学校に入ったのだという。費用は、ゼバスチャンが出した。昨日も電話で話したが、ゼバスチャンの逮捕に動揺するアンナに、マリアはなにも答えてくれない。
アンナの動揺をよそに、ビーグラーは小躍りしていた。
マリアは生きている[exclamation×2]と。

アンナのホテルに一泊した二人は、翌日、酷い雨の中、ゼバスチャンが相続して、人手に渡していないという、エッシュブルク家の狩猟館を訪れる。
狩猟館の内壁には、一面に多数の十字架が描かれていた。
いったいどれだけの歳月をかけて描かれたのか…ビーグラーとソフィアは言葉を失った。
一面の十字架を見ているうちに、ソフィアは、
「ゴヤの絵を思い出します」
と、震えた。我が子を食べるサトルヌスなどを描いた「悪夢」という一連の絵画…
それを聞いて、ビーグラーは驚く。
サトルヌスはどうやって、我が子を食べたのか、という彼の問いに、ソフィアは、頭にかじりついて…と答える。
『男に頭をかじられました。男の名はゼバスチャン・フォン・エッシュブルク。彼は…悪夢…』
事件の第一報は、被害者とみられる女性からの通報の電話だった。
ビーグラーの頭の中に、事件の構造がぼんやりと見えてくる―

一方、ソフィアは、マリア(宮本裕子)が現れ、ゼバスチャンが変貌したローマの個展をまざまざと思い出していた。
個展の成功にホッとして、喫煙所にいたゼバスチャンは、一人の少女に声をかけられる。
「仕事を手伝いたい」という彼女に、あいにくアシスタントはとっていない、と答え、握手の求めに、引き気味に手を伸ばしたゼバスチャンは、握手した手の先から何かを感じ取る。
そして、まともに立っていられなくなったゼバスチャンを見つけたソフィアが、懸命に彼を宥めようとするが、ゼバスチャンはうわ言のように、自分の写真は、人々が左右対称を美しいと感じる、それを証明したに過ぎなかった…と、絶望的に語り、パネルに飾られた自分の作品を破壊し始める。
「ゼバスチャン…あなた…こわいわ…」
呟くソフィアに、ゼバスチャンは、とうとう、自分の手にナイフを突き立てる。
「僕も…僕も…自分がこわい…」

次記事に続く。


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July

ドカン、ドカンと笑いが起きていたのでリップサービスもあるでしょうがトークショーでは橋爪功さんは超ご機嫌でした。
宝塚スカステ見ていても特にディナーショー。関東のお客様大人しいみたいですね。
祐飛さんはもう充分心得ていますよねえ。さて、久々のディナ-ショー楽しみです。東京、名古屋、大阪と実地検分してみましょうですね。

by July (2015-08-27 23:41) 

夜野愉美

Julyさま
祐飛さんは、関西をホームグラウンドのように言われていましたね。客席は、祐飛さんのファンが多いんでしょ?みたいな…
今回のトーク&ライブのトークは、かなり自由な感じなので、場所の違いで、どんなふうに変わるのか、私も楽しみです。
by 夜野愉美 (2015-08-29 09:47) 

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