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「ME AND MY GIRL」 その5 [┣宝塚観劇]

「ME AND MY GIRL」感想その3です。その1はこちら、その2はこちら、その3はこちら、その4はこちらにあります。

マリアにひとつ、誤算があったとすれば、それは、ビルとサリーの深い愛の絆を甘く見ていたことだろうと思う。
愛なんかにそんな価値はない。マリアはずっとそう信じてきたのだろう。
信じるように努めてきたのだろう。
引き離せば忘れてしまう、恋なんてそんなものだと。
ビルとサリーの深い愛を知り、マリアは動揺する。これまで、確固としていた基盤が緩む。
その時、ジョン卿が30年以上ひそかに続いてきた愛の話をする。マリアもそれが誰と誰のことか、すぐにピンとくる。
そういえば、子供のころ、この二人が仲良しだったというエピソードが、途中に出てきたっけ。その時のタキさんの表情を見ていて、この人は厳格を装っているけど、実は楽しい人なんだろうな、という気がした。ヘアフォード家の娘として公爵家に嫁いだから、そして今は、当主のいないヘアフォードの家を守る立場だから、厳格でなければならない。それは身についてしまったしがらみで、でも、この人の本質ではない。
ジョン卿は男爵らしいので、もし結婚したら、彼女は、今までよりずっと自由な自分を取り戻せるんじゃないかなー。
でも、この場面では、キスシーンの途中で登場したヘザーセットの咳ばらいにより、マリアは慌てて戸外に出て行く。

ジョン卿はしばらくヘザーセットに気付かず、もう一度間近で咳ばらいをされてようやく認識する。
近づきすぎているヘザーセットが、妙にいやらしい。
それがヘザーセットとしていいのか、という気持ちはあるのだが、(だって英国貴族のお邸の執事だもん。イメージがあるじゃないですか!)小芝居としては面白い。

「女だな、ヘザーセット」
と言うジョン卿が可愛い。大人の男性の可愛らしさ。
「君は恋をしたことがあるか?」
と問われ、ヘザーセットは、
「いいえ、結婚しておりますから」
と答える。
このやり取り、“アーネスト”にも似たようなのがあったような…。
「知らなかった」
と答えるジョン卿に、
「あなたさまは、結婚式にいらしてくださいました」
と、泣きごとを言うヘザーセット。本当は、泣きごとじゃなくていいと思う。事実を淡々と述べる執事。それで、驚く貴族。それだけで、観客は笑える。
ただ、今回の越乃の役作りには、この演技が合っているし、二人のやり取りは何度見ても笑える。
こういうミーマイがありなのか、なしなのか、答えは簡単には出せそうにないが、今の月組は、こういうところに若さが出るとは思う。演技者が若い日本人の感性で作った演技に対して、この役にはこういう背景がある、と説明できるベテランがいないから。そういう背景を知った上で、日本人ばかりの観客に向けての演技を構築する。そのひと手間というか、ワンクッションがほしいと思うのは贅沢だろうか?

貴族にとって使用人は、その名前や生活を記憶しておく価値もないらしい。
けれど、貴族は、使用人がいなければ何もできない、ということもまた事実で。態度はでかいが、彼らを信頼して、多くを任せている。
決して意地悪には見えず、かといって無関心さがイヤミではない、霧矢のジョン卿は、その温かさ、お茶目さがとても魅力的だった。

一方、ビルは「ボクはただの伯爵だよ。獣医じゃない」と言って、ジャッキーをひどく怒らせる。
明日海のジャッキーは、獣医に見てもらうようなケダモノにはとても見えなかったが、城咲のジャッキーは、可愛いながら、獰猛な側面があって、さすがにうまいなと思った。
しかし、ジェラルドにお尻をぶたれて、改悛の情を見せ、結婚を決意するのはなぜなんだろう?と、いつも思う。ジャッキーのはねっかえりは、自分を支配してくれる男を待っていたという意味だったのかな?
古すぎる…!
(いや、古いミュージカルではあるのだが)

ビルは、マリアがサリーを隠していると思い込んでいる。
そして、サリーがいないこの家に未練はない、とランベスへ帰ることにする。
ビルにとって、それは大好きな初めての家族と別れることでもある。それでも、ビルにとっては、サリーがすべてに優先するから。
「おばさんが僕にキスしてください」
と言う辺り、瀬奈ビルは、そんな切なさが滲む。
そして、出雲マリアもまた、そのビルの思いを汲んでいる。それは、立場上厳格にならざるを得なかったという役作りをしているからこその、共感部分なのではないだろうか?マリアとビルには確かに共通の血が流れている、ということを強く思った場面だった。

だからこそ、美しいレディーに成長したサリーを見た時、マリアのジョン卿への感謝が胸を打つ。
ビルが相応しい配偶者を得た安心感が伝わってくる。そしてそれをもたらしたジョン卿への信頼感。ビルが当主となり、奥方を迎えれば、後見人としてのマリアの役割も終わる。きっと、自然にジョン卿のプロポーズを受け入れるんだろうな…と、普通に予想できてしまうような、そんなマリア像だった。

それだけに、ビルとサリーのハッピーエンドは、ちょっと肩すかし、というか、あっさり風味。
これも瀬奈らしい、といえばそうなのかもしれない。ある意味、リアルなラストシーンなのかな。
ハッピーな海外ミュージカルのラストシーンのお約束としては、もっと思い切りタメて、バーンっと盛り上げてほしかったりもしたが、これは、好みが分かれるところかもしれない。

今回の「ME AND MY GIRL」は再々演だったから、初演(同キャストでの再演を含む)、再演(天海版)を経て、スタンダードみたいなものが確立された後だったから、余計難しいものがあったかもしれない。特に、天海は剣の弟子みたいなものだったから、違いながらも底辺に流れるものは同じで。だから、瀬奈のビルに違和感を抱く人も多かっただろうと思う。
でも、時代は移り変わっているし、今の時代には、今の時代のミーマイがあってもいいと思うし、何はともあれ、かなみちゃん、卒業おめでとう!絶対ミュージカル女優になれよ!みたいな、公演だった。

フィナーレは、ロケットに、足上げ名人、麗百愛ちゃんを発見できず、がっくりしていたら、フィナーレの淑女に入っていて、嬉しい驚き。(でも、やっぱり寂しかった…)
きりやんのショースターっぷりには、もう脱帽。やっぱり、ミュージカルのフィナーレは、この人を見ると元気になる。
そうそう、幕開きの紳士・淑女は、みりおもあいあいもめちゃくちゃキュートだった。特にみりおは、ありえない美貌。期間限定の美女を思い切り堪能させてもらった。
トップコンビのデュエットダンスは、惜別のデュエットという感じで、本編に織り込めなかった、かなみサヨナラな雰囲気を十分に感じることができた。これは幸せな退め方だったのではないかな?
パレードで、白のエトワール→ウェディングドレスと、たぶん一生懸命に観ていない観客には、早替りにすら気づいてもらえない衣装替えなのに、アクセサリーもすべて交換し、最後まで“娘役”の心意気を貫き通した出雲綾に、心からの拍手を送りたいと思う。


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